2012年04月17日

カルネアデスの坂〜前篇〜(第9話)

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カルネアデスの坂〜前篇〜


白い壁 白い廊下 微かな薬品の匂い。

病院の待合室は、どこか重苦しい雰囲気


いつ来ても緊張する
会社の健康診断で


『要・再検査』


個人的に来るハメになった。

生涯現役

20代で株式会社設立
以来50年以上身を粉にして働いてきた。

数年前に代表取締役(社長)を退任して会長になる。


仕事一筋に生きてきたせいか結婚もせずに・・・ここまで来た
まだまだイケる。これからは更に会社を大きくしなければ・・・

「直腸癌です。既に多機能に移転していて、投薬療法しかありませんが、それでも
三か月ないし二カ月でしょう」


たった、・・・三か月?


膨大な遺産や名声を得ていても・・・どうすることも出来ない


・・・


老後の楽しみも無かったが

受け入れたく無かった。

「すぐにでも当院での入院をお勧めしますが」

「いや・・・どうせ死ぬなら冷たいベッドの上より、畳の上で死にたい」


話がまとまった。

待合室で待たされている時間が長かった。・・・死の恐怖・・・


「会長、午後から株主総会がありますので」

「あぁ・・・表に車を回してくれ」

部下には黙っている方が良いだろう。


身寄りも無く・・・誰に看とられる訳でもなく死んでいく

こんな悲しいことは無い。
喪主は誰がするんだ?

車の中で死んだ後のことばかり気になった。
死ぬ人間が死んだ後の事を気にしても仕方ないことだが、人には迷惑をかけたくない。

オフィス街の景色を眺めながら車の窓を開け放つ。




いい風だ。


「ん!?」



あの男・・・


「倉橋君、車を止めてくれ」

「ですが会長・・・」

「いいから、止めろ!」


あの男を私は知っている
ずっと昔・・・一度出会ったことがある。


1960年代・・・


敗戦から間もないころ・・・
戦争の傷跡が色濃く残っていた時代

戦争で両親を亡くして祖父と二人暮らしになった。
食べる物にも困る貧しさ


生きる為に14歳から働き始めた。

貧困の時代・・・
朝早くから夜遅くまで働いた。

そんな時に出会ったコートの男。

俺が22,3歳の頃に突然、道端で声を掛けられた。

「すみません。この辺りで、桜井さんというお宅をご存じないですか?」

「この辺で桜井はうちだけですけど」


夏の・・・

とても暑い日だった気がする。

物が無い時代に帽子付きのコート・・・


それ以前に真夏日に汗一つ流さずに冷静に立ち尽くしていた。
鼻と口しか分からない・・・失礼なヤツだ。

帽子脱げよ。最初に、そう思った。

「それは良かった。すみませんが案内してもえらえますか?」

「じいちゃんに用ですか?」

「はい・・・うちに来てくれ。そう・・・ことづかっております」


人嫌いのじいちゃんが?


酷暑・・・少し歩くだけで全身から汗がしたたり落ちる。

後ろから付いてくる客人は平然として息も乱れていない。

「暑いですねぇ」


・・・


冷やかに言われても

なんだってトリカゴなんか持って、うちを訪ねてくるんだ?


黒い布に・・・おおわれたトリカゴが気になった。


「じいちゃん、お客さん」



軒先で座っていた・・・じいちゃんが振り返る。

「いやぁ〜・・・わざわざ来ていただいて申し訳ない。
ささ・・・どうぞ上がって下さい」


・・・


まるで俺なんか眼中にない感じで丁重に客人を招き入れた。

人嫌いのじいちゃんが笑ってる。

じいちゃんは結核を患っていた。
病床にありながら招いた客人


なんの話をして?
聞き取れない。

家に入っても帽子を脱がない客人

本当に失礼なヤツだ。


・・・


30分少しして男が帰っていった。

「お邪魔しました。お体お大事に」

態度は失礼だが言葉づかいは紳士的だった。


「じいちゃん・・・」


じいちゃんの側にはトリカゴ
そして中には青色の鳥。

じいちゃんは貰った、としか言わなかった。


・・・


あえて何も聞かなかった

なんで鳥なんか!
食べ物買った方が断然良い。


この時は・・・


そう思った。


一か月後

じいちゃんが血を吐いて、容態が悪化した。

「じいちゃん!今医者連れて来るから!」

「待ちなさい。ウゴォホ・・・ゴェホ・・・」
咳と一緒に血が飛び散る。


「じいちゃん・・・死んじまうよ」

「呼ばなくて良い!自分の死期ぐらい分かる。そんなことより、ここへ座りなさい」


「じいちゃん」

じいちゃんはトリカゴを両手で支えながら語り出した。

「よく聞きなさい。この鳥は幸せを運ぶ鳥・・・わしが死んで10年はお前に幸せが
舞い込んでくる」

「・・・」

「良いか?ちょうど10年じゃ。その後は、逃がしてやれ・・・分かったか?」

「分かった」

「ゴフォ・・・ゴフォ・・・」

目をそむけたくなるような咳。


じいちゃんは翌日・・・

亡くなった

痛々しい死から間もなく
両親、祖父の遺産を元に建設会社を設立


それが当たった。


崩壊した建物が多かったせいかウソのように仕事が殺到した。
瞬く間に一部上場にまで伸し上がり高度経済成長の先駆けとなる。



10年後の命日・・・

言われた通り青い鳥を放してやった。

じいちゃんの置き土産


幸せの青い鳥を売った男


その男が、いま目の前を歩いてる
間違えようの無い黒のロングコート。昨日のように覚えている。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ年は取りたくないものだ」

ほんの少しの距離で息が続かない。

「会長!」

「はぁ・・・はぁ・・・」

膝に両手を付けて立ち止まった。

「会長・・・この後、株主総会が・・・」

「よし!!倉橋君、おんぶしたまぇ」


・・・

「ここで・・・ですか?」

「早くしないと見失ってしまう」

「・・・」



「分かりました」

「あの全身、黒づくめの男を追ってくれ」

「分かりましたぁ!」


流石に若いだけに体力に限界がないように感じる。

「いいぞ〜〜倉橋君。次のボーナスは特別割増にしておく」

「ありがとうございます」


俄然(がぜん)早くなった・・・若い頃を思い出すなぁ。

男が路地に入って行くのが分かった。

路地裏にある建物・・・



闇の販売所?


男が店内に入っていくのが確認出来た。


「倉橋君・・・降ろしてくれ」

「会長!あの男が何か?」


その質問には答えずに左手を上げて制した。


「少し・・・待っていてくれ」


地味な扉を開け 店内に入った

来ることが分かっていたのか?正面に男が立ったまま出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ・・・何かお探しですか?」

間違いない


昔、見た男に瓜二つどころか本人だ。年を取っていれば・・・俺より上のはず!
・・・だが



なぜだ?


「君を追いかけて来たんだが、君は私を知らないのか?」

「大変・・・申し訳ありませんが以前どこかでお会いしましたでしょうか?」

「50年以上昔・・・君を見た事がある。でも、君は私よりも若い。必死に
追いかけて来たが勘違いだったようだ」


・・・


「邪魔したね」


帰ろうと黒いドアに手を掛けた。俺は何バカなことしてんら。
普通に考えれば分かることなのに


「それは、多分・・・私だしょうね」



な!



「それは・・・本当かね?彼の息子や親類じゃないのかね?」

「・・・」

「その帽子付きで長めのコート・・・それと決して脱がない帽子。
似ているがご本人なのか?」

「それは、私本人であって私ではありません」


言ってることがサッパリ分からん。

「理解に苦しむのだが」


・・・


「詳しくは・・・お答えできませんが、私の取り扱う商品を試した人であれば
何となく、分かるんじゃありませんか?」



言われてみれば、そうかも知れない。あの鳥のお陰で今の俺がある。
不思議に思うだけ時間の無駄!だろうな


「そうだな。今さら君を疑っても仕方ない・・・申し訳ない」

「どうです?よろしければ当店の商品見て行かれませんか?」

「相変わらず帽子は脱がんのだね。そこが良いのかも知れんな」

「見たい」


・・・ですか?

「いや・・・興味がない。それと商品の話なんだが、やめておこう。
俺は、もうすぐ癌で死ぬんだ」


あかの他人に話す事でも無かったが、自然に言っていた。

「カルネアデスの坂・・・という言葉をご存じですか?」

「がるねあです?聞いたことも無いが、それが?」

「日本の刑法第37条に該当する言葉で・・・緊急避難とも言いますね」


・・・


なにが言いたい?


「わが身を守るためなら、他人を犠牲にしても罪にならない法律」


・・・



「他人を犠牲にして助かってみませんか?」


!!!?


「そんな・・・悪魔みたいなことが可能なのか?」

興奮のあまり、男に近づいていた。

カルネアデスの坂という名前の商品は御座いません

ですが・・・

変わりに死んでくれる人なら居ます」


一体どういうことだ?


「身代わりに死んでもらう?少し気が引けるな」

黙ったままの店主を見つめて・・・

「しかし本当に・・・身代わりに?」

「はい・・・身代わりです。無理にとは言いませんが」

「何をすれば良い?」

・・・

「簡単なことです」

・・・

「魂を交換します」

「俺は・・・もうすぐ死ぬんだぞ!それじゃ相手が可哀そうだ」

「大丈夫です!相手の方は誰でも構わないと言われております。

たとえ

死ぬのが分かってる人間でも」


そんな・・・本当にそんな人間が?

「もしかして犯罪者や俺より年上じゃ無いのか?もっと凄い病気の持ち主とか」

「あなたよりも、だいぶ年下ですよ。犯罪者や持病もなく・・・ごく普通の
一般人です」


おかしい!?

何故そんな人間が

「納得いかないな!普通の人間なら絶対に否定するはずだ」

「理由までは、私にも分かりません。ですから、無理にとは言いません。」


どうする?


お言葉に甘えるか?
もう少し・・・生きていたい。
死ぬのが怖かった


相手が良いと言うのなら・・・

「こちらが相手方の写真です」


な!!!


これは・・・



間違えなく






「おや?どうされました?」

言葉が見つからない。

もうすぐ喜寿(77歳)になる男が・・・女?


この娘と人生を交換するのか?


抵抗がある


「彼女の名前は坂本香織さん21歳。綺麗な方ですよ」


俺が・・・



女に?


「どうされます?お辞めになりますか?」

仕方ない

「分かった!この娘と交換してくれ」

「では・・・こちらの商品1億になります」

!!

「1億?」

「はい」


死んだら使えないお金・・・
安い買い物だ。


まだ悩みながらも買う事にした


「連絡をお待ち下さい。お気をつけて」


そして店を出た

「会長!知り合いだったんですか?」

「あぁ・・・旧い友人だ」


・・・

・・・



「倉橋君」

「はい」


「おんぶしてくれ」

「分かりました」



カルネアデス前篇終了


◇次回は後篇です◇お楽しみに

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posted by まさるっち at 00:20| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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